審査員インタビュー:世界に広げるための視点
元・中国重慶 日本国総領事 MarchingJ財団 事務局長
瀬野 清水
舞台とは、観る人、演じる人、それを影で支える人、それらが三位一体となって初めて大きなエネルギーになる。

日本とまったく違う、中国における〝文化〞的活動。
―25年間外交官を務められたとお聞きしていますが……、そもそも外交官とはどのようなお仕事なのでしょうか?
 外交官の仕事は主に5つに分かれています。政治、経済、広報文化活動、そして邦人の保護をする領事活動と、日本を訪問する外国人のために査証を発給する仕事があります。まさに国同士の架け橋というか、日本のことをよく知ってもらうのと同時に、日本にも相手国のことをよく知ってもらう〝相互理解を促進するお仕事〞ですね。
―中国事情にもお詳しいかと思いますが、文化の面においては日本とどのような違いを感じられますか?
 〝文化〞の位置付けがそもそも違いますね。日本やアメリカは自由主義の国で、自由な考え方や発想が文化の発展の根幹にあります。しかし、中国は社会主義・共産主義の国なので、どちらかと言えば国の政策を宣伝したり、共産党の考えを具現化するものが〝文化〞。中国での文化活動とは「政治の延長線上にあるもの」なんです。
 そのために日本と違って非常にいろいろな制約が存在するんです。
―なるほど。それこそ体制を批判するような文化活動や芸術はNGになりますよね?
 もちろん御法度です! 外国の企業が中国で何かイベントをやろうとすると、まずその内容を細かく記録した映像や資料を当局に示して、許可がおりなければ実施できません。それと中国が今、一番大事にしているのは〝社会の安定〞なので、少し反社会的なのは敬遠されます。だから、ストリートダンスも不良っぽく表現したものはあまり良く思われていないですね。ただこれは当局の理解が世界の流れに追いついていないだけなので、だんだんと理解は進んでいくとは思っています。
―では、ダンスや舞台芸術はどのようなものが上演されているのでしょうか?
 今は自由の度合いも広がっているので、昔と比べて日本とほとんど変わりはない印象ですよ。ただ、明るい内容や未来に希望が持てるもの、観た人が勇気や希望を持てるような前向きなメッセージが含まれているものは非常に歓迎されますね。
「作品名」を打ちだすことは世界に広げるためにも重要!
―ポジティブな内容が好まれるというのも、中国政府の方針なのでしょうか?
 ご存知のとおり、中国自体が今めざましい発展をしていて社会も激変しているので、それについていけない人や重圧を感じて精神的に病んでしまう若者が多いという問題点があります。だからこそ日々の生活に元気を与えてくれるような明るい内容の舞台芸術は好まれます。
しかし、それは国や政治を問わず、心を豊かにしてくれる、人として輝きたいという根本的な欲望を満たしてくれるのが芸術だと思いますね。
―確かに、そういった人の心を豊かにすることが芸術の本懐と言えますね!
 特に舞台というのは、観る人、演じる人、それを影で支える人、そういう3つが一緒になって初めて出来上がる芸術ですよね。『Legend UNIVERSE』を例にとると、観客とダンサーと振付師でしょうか。この三者が三位一体となって盛り上がって、大きなエネルギーになるのだと思います!
―他になにか中国ならではの傾向や特色は何かありますか?
   例えば映画だと「この映画の教訓はなんですか?」と聞かれることが多いですね。日本だと「観た人がそれぞれ、観たままに感じてください」ということも多く、「こういう風に観なくてはいけない」という基準はありませんが、中国ではそれを求められることがよくあります。例えば、中国では生け花が今とても流行っていますが、日本とは違って必ず作品に題名が付けられます。生け花に詳しくなくても、題名を見ると「この作者はこういうことを表現したかったんだな」と解りますからね。
―では、審査員をつとめられる『Legend UNIVERSE』で大事にしたいポイントを教えてください!
  まったくダンスの専門知識はないからこそ、逆に先入観なく「普通の人が観てどう感じるか?」という点は大事にしたいですね。それと、「ダンスに作品名を付ける」というルールはストリートダンスを世界に広げるための一歩先をいっている気がします。作品名から、どういう気持ちで作られたのかを知った上で作品を観れるのが非常に楽しみです!
JOB FILE
日本国外交官
1975年に外務省に入省し、外交官として37年間、うち25年間は北京、上海、広州、香港など中国に駐在。昭和から平成における激動の日中外交事業を数多く担い、日本と中国をつなぐ架け橋を担ってきた。
文化交流事業
外交官として駐在先のそれぞれの地域での文化交流事業も手がけてきた。また、日本の文化を中国に紹介するだけではなく、中国にも積極的に溶け込み、現地の文化を日本に紹介してきた。
中国を身近に感じてもらえるように
現在は、多くの日本人がパンダを身近に感じるように、特に日本の若者がどんどん中国を旅行し、ありのままの中国を身近に感じて欲しいとの願いから、若者交流、文化交流、民間交流の発展に努めている。
中国に進出する邦人企業の支援
経済発展が目覚ましい中国には数多くの邦人企業が進出している。こうした進出企業やこれから進出を考えている企業のためにシンポジウムやアドバイスを行なうなど、精力的な活躍をしている。

Profile

1975年外務省入省。香港中文大学、北京語言学院、遼寧大学を経て、北京、上海、広州、香港などにある日本の大使館、総領事館で勤務。2012年重慶総領事を最後に退職し、現在は(一財)MarchingJ財団事務局長を務めるほか、日中協会理事、アジア・ユーラシア総合研究所客員研究員など、日中の架け橋として活動中。