審査員インタビュー
アート作品としての視点 /
アート賞 選定審査員
アート・ディレクターとして数々のビッグプロジェクトを手がけ、パフォーミングアーツとしての〝ダンス〟に深い見識を持つ榎本氏。
2016年『Legend Tokyo』では世間に広まる前にいち早くakaneの才能を称え、「日本ダンスフォーラム賞」授与にまで推薦した選定眼をもつ。
そして今回新設される「アート賞」を見極めるため、7年ぶりに審査員として登場!
現代アート界の在り方を見極めるプロフェッサー!
現代アート界の在り方を見極めるプロフェッサー!
株式会社アタマトテ・インターナショナル 代表
日本ダンスフォーラム ボードメンバー
大正大学表現学部 学部長/教授
榎本 了壱

武蔵野美術大学を卒業後、寺山修司の映画美術を担当。雑誌『ビックリハウスsuper』の編集長を経て1986年アタマトテ・インターナショナルを主宰する。2007年には日本コンテンポラリーダンス界の年間賞である「日本ダンスフォーラム」を発足するなど、パフォーミング・アーツにも精通し、大学教授、社団法人理事を務めるなど幅広くアカデミックな活動を行なっている。
エンタメとアートの境界が崩れている今、
作品をアートだと思ってクリエーションして欲しい。
身体性だけではなく、あらゆる要素を計算して組み立てる。
──7年ぶりのインタビューとなりますが榎本さんは近年はどのような活動を?
クリエイティブ・ディレクターとしてパフォーミングアーツの催しを手がけることや大学で教鞭をとるほか、最近では書画家として展覧会を開くなどアーティストとしての活動も増えています。
今や世田谷美術館には私の作品が100点ほど収蔵されているんですよ。
──美術館収蔵とはすごいですね! ダンス分野でも榎本さんは早くから振付師のakaneさんを高く評価されていましたよね?
そうですね、私がボードメンバーを務める「日本ダンスフォーラム」で賞をお贈りしました。
この賞はコンテンポラリーアートを中心とした選考会ですが、akaneさんはもはやストリート系のダンスの枠を超えていました。
「旧態依然としたアカデミーばかりを応援するのではなく、こういった時代の先端性のあるダンスの魅力をちゃんと評価していかなければ未来がない!」と選考会で力説したのを憶えていますよ。
──コンテンポラリー界の授賞で驚きましたが、そういった訳だったのですね!
やはりダンスというものは、基本は身体性のテクノロジーというか、身体で説得力をもっているかどうかが重要ではあるのですが、それだけ突き詰めても活躍していけない。
どういう衣裳を着て、音楽と関係して、照明や美術と絡み合いながら空間と時間を作っていくのか? それが計画できないと未来がない。
もちろん、それは全部自分で作る必要はなくて、アーティストやミュージシャンと関わりを持って表現することがこれからもっと重要になってくると思います。
ダンスは上手いけどそういう関係が作れなかったという人は、「いいダンサーだったんだけどね」って言われながら年をとっていってしまいますから。
──ダンスの技術でなく、人を巻き込む力も必要なんですね。
さらに近年では、アートとエンターテインメントという2つの言葉が今すごくクロスオーバーしている。
この2つをきっちりと分けられる人はいないと思うんですよね。
今や〝ストリート〟ダンスではない!
──確かにアートとエンタメの境目を問われると上手く答えるのは難しいですね。
『Legend Tokyo』の振付師の人たちも、もしかしたら「クラシックなダンスと比べて、自分はエンタメなダンスをやっている」と考えているかもしれないけど、結構アートの領域に踏み込んでると思いますよ。
今はエンターテインメントの世界の中に〝新しいアート〟と言っていいような行為や表現、思考や思想がかなり出てきています。
自分はエンタメ思考だからアートは関係ない……ではないんですよね。
──アートなのかエンタメなのか……、それこそストリートダンスというジャンル自体も境目が分からなくなっていますよね。
ストリート系のダンスも日本に入ってきてもう50年も経っていますよね。
もともとは若者らが自分たちの表現行為を劇場ではなく路上で展開していったのがストリートダンスでしたが、今はもう音響や照明設備の整った劇場の中で空間演出を考えて行なわれているのが主流になっている。
もともと出自は〝ストリート〟だったかもしれないけど、もはやこれは〝ニューシアターダンス〟と言っていい分野だと思います。
──『Legend Tokyo』もニューシアターダンスの大会と言っていいかもしれないですね。
身体の魅力をどうやって表現するかはダンスのクリエーションの面白さの基本ではありますが、やはりこの大会で1番感じるのは音楽や美術、照明との関係、空間と時間をどう使っていくかという総合力の面白さだと思います。
そういう意味では作品として照明に随分助けられているところはあって、照明プランナーの方もなかなかエンターティナーだと思いますよ。
それは悪いことではなくて、そうやって関係していくクリエイターやアーティストが多ければ多いほど面白いクリエーションになっていく。
そういうことを忘れずに〝ダンサーとコレオグラファーだけの世界じゃなくなってきている今〟というものを、しっかりとクリエーションしてみせて欲しいと思います。新しい才能との出会いに期待しております!
JOB FILE
2017年「日本ダンスフォーラム賞」にakaneを推薦!

自身が『Legend Tokyo』で審査員賞を贈ったakaneをコンテンポラリー界の名誉賞に推薦。名だたるダンス芸術家と共に受賞に導いた。
「東京大壁画」
キュレーション

東京の丸ビル・新丸ビルの壁面に、横尾忠則氏と横尾美美氏による巨大壁画アートを展開するプロジェクトを手がけた。
「種子地蔵」
企画・デザイン

学部長として教鞭をとる大正大学が社会・地域貢献活動の一環として建立したお地蔵様。そのデザインを手がけた。
「横尾忠則展 銀座番外地」
キュレーション

横尾忠則氏のラフスケッチやアイデアノートなど、作品完成に至るデザインのプロセスに焦点を当てた展覧会をキュレーションした。