生澤美子 | 本戦審査員インタビュー

審査員インタビュー
衣裳などの視覚美術力を見極める視点 /
衣裳・装飾美術賞 選定審査員

ミュージカルや演劇、アーティストライブなど、エンタメの世界観を構築する重要な要素である舞台衣裳。

その中でも〝日本で最も有名な舞台衣裳〟といえよう「紅白歌合戦」の小林幸子の衣裳を手がけていたのが生澤美子氏だ。

ダンス衣裳からそのキャリアを出発させ、今やトップ衣裳デザイナーとして活躍する彼女が大切に考えている視点とは!?

「紅白歌合戦」小林幸子の衣裳を手がけたトップ衣裳デザイナー!

「紅白歌合戦」小林幸子の衣裳を
手がけたトップ衣裳デザイナー!

コスチューム・デザイナー
生澤 美子

PROFILE

バレエ総合メーカー・チャコット在職中にアメリカの技術に触れ、舞台衣裳を学びに渡米。さまざまな舞台に制作スタッフとして参加するほか、ニュージーランド特殊衣装デザインコンテストWOWで連続入賞を果たす。2004年に帰国後、NHK「紅白歌合戦」の小林幸子の衣裳を手がけるほか大型舞台公演の衣裳を担当するなど、国内におけるトップ・クリエイターとして活躍中!

作品全体の期待感を左右する!
最初の一瞬のビジュアルを大切にして欲しい。

観る人を現実とは違う世界に連れて行く!

──生澤さんは、衣裳デザイナーとして大きなお仕事を数多くされていますが、衣裳制作において大事にされていることは何ですか?

仕事によってその目的や形態もさまざまですが、やはり1番は「どう作られているかわからない」ということだと思います。

作り方がわかって想像できてしまうもの、例えば「どこどこで売ってた布地だな」とか分ってしまうと、観る側は〝現実〟を感じて冷めちゃうんですよね。

エンターテインメントって、お客さんを現実とは違う世界に入ってもらうことが大切だと思います。

衣裳はその中でも大切な道具の1つ。

劇場で幕が上がったら、中世のフランスや昔の日本だったり、パッと目に入るビジュアルで、まずお客様を非日常である作品の世界観にお連れすることが重要だと考えております。

──なるほど作品の冒頭でお客様の心を世界観に惹き込むためにも衣裳が果たす役割は大きいんですね!

例えば「紅白歌合戦」でも小林幸子さんの出番はだいたい視聴者が番組に慣れてきた後半。

ニュースを挟んで「お待たせしました、小林幸子さんです!」って紹介され、上半身のアップがカメラに映されるところから始まります。

その一瞬!その印象で視聴者に期待してもらえるのかどうかが決まってしまうので、そこから非常に神経を注いでいました。

実は最初の画面で必ずマイクも映るので、衣裳のみならず、そこにも気を抜かずに細かい装飾をしてたんですよ!

──そこまで意識されていたんですね! では、ダンスの衣裳を制作する場合、普通の衣裳と比べて違うことはありますか?

まず、一般的な洋服は日常の生活に適したパターンになっていて、ターンをしたり手を回したりする時の状態は考えられていません。

ですからダンスには適していないんですよ。

ダンスの衣裳の場合は、身体を動かしやすく、手を挙げた状態でもシルエットがくずれない、動きの邪魔にならずに身体表現の一部となる、その辺りを意識することが重要ですね。

才能があるだけでは仕事を広げることはできない。

──となると、振付師の方と相談しながら作ることもあるのでしょうか?

基本的には演出や責任者の方からの要望をくみ取りつつ、細かいところを振付師の方と一緒に相談しながら作ることもあります。

特に海外のテーマパークでのお仕事で学んだのは、考案当初のイメージデザインも踊ってないと世界観が伝わらないこと。

ファッション誌のようなポーズ画ではなくて、踊っている身体をベースとした衣裳デザインを描いてみせる必要があります。

そうすると振付師も衣裳がこうなったらいいな、だったらこう振付しようと意見をくれて、面白いものが作れるんですよ!

──では、衣裳のプロとして日本のダンサーや振付師に思うことはありますか?

予算のことや全員分揃えるという条件もあって、衣裳ってどうしても後回しになってしまうと思うんです。

でも、やはりパッと観た第一印象でお客さんの期待感は決まってしまいます

せっかく大きな舞台に出るからには、私から見ても「悔しい!」って思えるものが見たいですね。

今回の『Legend Tokyo』の審査でも、そういった視点で作品を観ていきたいです!

──生澤さんは審査員として初参加となりますが、大会の印象を教えていただけますか?

クリエイターとして〝仕事を広げる〟という視点で大会構造が考えられているのが、すごく斬新ですよね!

ただ「いい作品を見せればいい」だけじゃなくて、必ずオーディションで出演者公募しなくてはいけない、いろんな視点を理解しなくてはいけない……等、細かいルールが「こういうことができないと仕事にできないよ」ってクリエイターを育てようとしているのが素晴らしいです。

やはり才能があるだけでは自分のアートを売っていくことはできないので、こういうことを教えつつ、皆さんにチャンスを与えてくれる大会なんて、他にないと思います!

私も審査員として、この人と一緒にお仕事できたらいいなという想いで見届けたいと思いますし、挑戦される皆さんが一生懸命に考えて作品に込めた細かいこだわりは必ず見つけたいと思っています!

このポイントを重視して審査!

作品が始まった瞬間、非日常の世界に連れていってくれる世界観!

JOB FILE

NHK「紅白歌合戦」
小林幸子の衣裳

2006年~2015年まで小林幸子が「紅白歌合戦」に出場した7回すべての出演において、同番組の目玉と言える巨大衣裳を手がけた。

World of Wearable Art Awards
4年連続入賞

ニュージーランドで開催されている衣裳美術の世界大会では、2003年~2006年にわたって連続入賞を果たしている。

ミュージカル
「エリザベート」舞台衣裳

小池修一郎の代表作である「エリザベート」をはじめ、「ロミオ&ジュリエット」、「1789」などの大型ミュージカルの衣裳を手がける。

Netflix映画「赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。」

橋本環奈、新木優子、岩田剛典など豪華キャストが話題の映画のすべての衣裳を担当。9/14よりNetflixにて配信開始される!

審査員一覧